2020年2月 東フィル定期公演 カルメン
少し遅くなってしまったけど、この前行ったコンサートについて。
チョン・ミョンフン指揮の東京フィルハーモニー交響楽団2月定期公演は、誰もが名前ぐらいは聞いたことがあるオペラ、カルメン。
カルメンは19世紀のフランス人作家、メリメの書いた小説をビゼーがオペラにしたもの。なので他のオペラと違ってイタリア語でなく、フランス語で歌われる。フランスオペラはストーリーや言葉の美しさにこだわっているので、歌や声そのものを重視するイタリアオペラとは趣が少し違うところだったりするらしい。
今回の公演は演奏会形式(またの名をコンサート形式)で。通常オペラ、というとオーケストラはピットから演奏、壮大な舞台セットあり、豪華な衣装あり、演技ありで見た目にも麗しいものを想像するかと思う。でも演奏会式というのはもっとシンプルなもので、オーケストラも歌手も同じ舞台の上で歌うもの。舞台セットや衣装、演技の度合いは公演によって違うので、ビジュアル的な迫力は通常のものに負けるところがある。
が、プログラムにあったマエストロ チョンのコメント曰く、通常のオペラでは歌手の動きもつけて演奏する以上、音楽的に妥協したり、ディテールも犠牲にされる、と。なので時々、コンサート形式で演奏するのが良いと思っている、と。なるほど、各々が理解を深めるための演奏会形式なのだ。
そして特設サイトを作ったり、開演前から東フィルtwitterの中の人や演者たちの推しが強い!
ただいま #チョン・ミョンフン #東京フィル #カルメン 舞台稽古中。轟く管、唸る弦、輝く声。もの凄い音圧。これがカルメン。 pic.twitter.com/da3faLOHQZ
— 東京フィルハーモニー交響楽団 (@tpo1911) February 17, 2020
こうやって宣伝をしてくれると、こちらも早く見たい!という気持ちがどんどん高まっていく。そして公演当日。観客の拍手とともに舞台袖から出てくるマエストロ。指揮台の上がる。でも彼の前に譜面台はない。そう、この指揮者は3時間もあるカルメンに暗譜で臨むのだ。「え、暗譜、、?」客席はざわつくが、すぐさまビシッと指揮棒を降り下ろし序曲が始まる。
オペラの場合、本編に入る前に「序曲」というものがある。序曲には役割が2つあって、1つ目は観客をそのオペラの世界に連れ込むこと。そしてもう1つはこれから見るオペラの予告編として。なのでよく聞くとその後の本編で使われるメロディーが聞こえてきたりする。ちなみにカルメンの序曲は以下youtubeから少しだけ聞ける。
【東京フィル2月定期演奏会】チョン・ミョンフン指揮 ビゼー/歌劇『カルメン』<演奏会形式>PR
あらすじについて。オペラ「カルメン」は登場人物4人を中心に展開していく。
まず、主役の魔性の女カルメン。そんなカルメンに惚れ込んでしまう兵隊ドンジョゼ、に彼の婚約者のミカエラ。そしてカルメンが惚れ込む闘牛士のエスカミーリョ。
一言であらすじを言うなら、恋愛のもつれからくる殺人事件。
それでは雑なのでもう少し詳しくあらすじを書いてみた。有名なアリアはかっこで。
<第一幕>
カルメンはタバコ工場で働く自由を愛する女性(ハバネロ)。注目を浴びるのが好きだが、ドンジョゼだけは婚約者がいて自分に全くなびかない。気に食わないカルメンだが、争いに巻き込まれ、逮捕されてしまう。そして彼女の見張りについていたドンジョゼを誘惑し(セギディーリャ)、逃走に成功。
<第二幕>
カルメンの逃亡先にエスカミーリョが華々しく登場(闘牛士の歌)し、くらりとくるカルメン。が、逃がしてくれたドンジョゼを待つ。そこにようやくドンジョゼ登場。私と一緒に逃げましょう、私のことが好きなら一緒に逃げられるはずよ!とカルメン。いやでも自分には職務が!と逃げ越しのジョンホセ。ならそんな男いらないわ!とカルメン。待ってくれよ俺はお前が好きなんだ(花の歌)とドンジョゼ。でももうカルメンの心は戻らない。
<第三幕>
ドンジョゼを連れ戻しにミカエラがやってくる(何もこわくない)。最初は健気なミカエラのお願いにも関わらず絶対戻らないというドンジョゼだったが、母親が病気と知り、ミカエラと家に帰る。
時は経ち、闘牛の日。闘牛士たちのパレードに盛り上がる群衆。カルメンはドンジョゼも会場に来ていると知るが、どこ吹く風。なんなら直接会って話するわ、と強気でいる中、ドンジョゼが現れ、よりを戻したいとまた懇願する。拒否するカルメン。自分の言う通りにならない私が嫌なら殺しなさい、と。そして逆上した彼はカルメンを刺す。
話がより分かったところで少し、カルメンに思いを馳せてほしい。一般的にカルメンは「悪女カルメン」と言われるが、どうなのだろう。あらすじを読んで、音楽を聞く分には彼女を全く悪い女と思えないのだ。自分が望まない道を選ぶぐらいなら潔く死んでやる、と羨ましくなるぐらい自分に正直に生きる女なのだ。歌いたいから歌う、愛したいから愛する。0か1かの極端さで人生を謳歌している彼女を悪女だなんて、私は呼べない。
ただ一つだけ言うとすれば、、カルメン、好きになる相手は選ぼうね?
そんな正直に生きたカルメンをマリナ・コンパラート、健気で可憐なミカエラをアンドレア・キャロル、ドンジョゼはキム・アルフレード、エスカミーリョはチェ・ジョンヒョクが演じた。女性陣の声が男性陣よりも力強く、魅力的に聞こえた。上記では触れなかったけど、子供の合唱団がまたいい仕事をしてくれる!子供だからできるたっかいキーの曲をベルのように澄んだ声で歌ってくれる。
演奏会形式ということで、装置や演出がないからつまらなかったどうしようと思っていたが完全な杞憂!一つ目の音が鳴りだしたら、スペインに連れて行かれたし、カルメンが歌い出したらそこはもうタバコ工場!ほんの少しの動きを足すだけで目の前にセビリヤを見せてくれる様は圧巻!
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東京フィルハーモニー交響楽団第932回サントリー定期シリーズ(サントリーホール)
指揮:チョン・ミョンフン
カルメン(メゾ・ソプラノ):マリーナ・コンパラート
スニガ(バス):伊藤貴之
モラレス(バリトン):青山貴
ダンカイロ(バリトン):上江隼人
フラスキータ(ソプラノ):伊藤晴
メルセデス(メゾ・ソプラノ):山下牧子
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:冨平恭平)
児童合唱:杉並児童合唱団(児童合唱指揮:津嶋麻子)